マイクロ波運用の手引き

松山地区SHF研究会

BY JA5JSU


1.SHFバンドとは

 マイクロ波は一般的には2400MHz〜3GHzの電波を呼んでいます。また、 電波の分類では、3GHz(波長10cm)〜30GHz(波長1cm)までの 周波数帯をSHFバンドと呼んでいます。この周波数帯にアマチュアバンドとして 5.6GHz,10.1GHz,10.4GHz,24GHzの4バンドがあります。

2.SHFバンドではどのくらい飛ぶのだろう。

 5.6GHz〜24GHzの伝搬は通常見通し内の伝搬ですので、HF・VHF帯 の伝搬とは少し様子が違います。
 マイクロ波と聞くと数10kmくらいしか飛ばないのではと考えがちですが、見通しさえ できれば数百kmの伝搬も可能です。
 たとえば、5.750GHzを用いて100kmの距離を伝搬させようとすると、

となります。
 次に、どのくらいの受信能力が得られるかというと、次図のような送受信電界の関係に なります。

 一方、パラボラ面の直径をD[cm]、使用する周波数の波長をλ[cm]、とする と利得G[dB]は次のようになります。

 5.750GHzで直径60cmアンテナを利用すると利得G〔dB〕は、

表1 パラボラ・アンテナの利得
周波数(GHz)アンテナ直径(cm)利得(dB)周波数(GHz)アンテナ直径(cm)利得(dB)
5.73022.1242031.1
 〃 6028.2 〃 3034.6
 〃 10032.6 〃 4037.1
 〃 12034.2 〃 6040.6
10 2023.7
 〃 4029.7
 〃 6033.2
 〃 10037.7

 上記の表のように、パラボラ・アンテナの直径が2倍になると、利得は4倍 (6dB)になります。直径が同じであれば周波数が2倍になるとやはり利得 は6dB増加します。

3.伝搬路の選定とプロフィール図の作成

 今まで述べた伝搬距離は途中に電波伝搬上の障害となるものがない場合であ って実際には伝搬路上には山があったり、立木があったりします。そこで、遠 距離通信の場合には、伝搬路上にある山、海、陸などの形がどうなっているの か一目で見てわかるプロフィール図を描いてみると便利です。プロのマイクロ 波中継局の選定の際には、1/25000や1/50000の地形図などを使 用するそうですが、アマチュアの場合は、通常では伝搬路が100〜300km などと長いので1/20万の地形図が便利です。これは、国土地理院から出さ れているもので、山の高さ、傾き、緯度、経度、距離などを知るのに便利に使 えます。この地図では、道路幅もだいたいわかるので、車で登れるかどうかの 目安になります。

 この地図上に、運用地点(自局)から相手局の間(伝搬路)に直線を引き、 等高線の日盛りと自局からの距離をプロットします。このように自局から何km の地点の標高は何百mという具合に根気よくプロットしていきます。最後にプ ロットした線で結ぶとプロフィール図のできあがります。 下図は等価プロフィール図を使った作成例です。

  *等価プロフィール図:1.地球は丸い 2.電波はまっすぐ飛ばず、下力向に曲 がりながら飛ぶということを考慮して作られたプロフィール用紙

 このプロフィール図を見れば見通しがあるかどうかなど伝搬路の様子がとて もよくわかります。また、伝搬路上にもし障害物がある場合も両局であとどの くらい上に登ればよいかなど判断できます。見通しさえあればミニパワーでも 十分交信は成立します。失敗した例のほとんどは途中に山や立木などがあって、 伝搬路をふさいでいる場合です。しかし、実際に見通せる距離はせいぜい20 0kmまでであり、それ以上は特別高い山に登らないと無理なようです。

4.降雨、霧、水蒸気などがマイクロ波の伝搬に及ぽす影響

 1時間に10mm程度の降雨の場合、5.7GHzではほとんど問題にならな いくらいの量ですが、10GHzでは0.4dB/km程度になり、100km 伝搬では40dBも減衰してしまい、まったく受信できなくなります。24G Hzではその量も話しにならいくらい大きい値になります。

 次に、霧・水蒸気ですが、これは5.7/10GHzでは問題になるほどの 減衰量ではありません。しかし、24GHzともなると0.17dB/kmくら いに増大しますので避けた方がよいでしょう。

5.回折、散乱、反射による伝搬

 日本記録などの200km以上の見通し外通信は山岳回折やダクト、散乱通信 によるものと考えられます。電波は通常障害物なければまっすぐ伝搬するので すが、切り立つ山などがあるとその山に沿って曲がりながら伝搬することが知 られています。これを山岳回折と呼んでいます。その曲がり方は、山の形状、 高さ、樹木の高さや種類によって大きな違いがあるそうですが、回折波を利用 すれは.300km、400kmと距離を延ばすことが可能だそうです。

 ダクトはいつでも発生していませんが散乱通信は常時可能です。散乱通信は 対流圏の密度の乱れた場所に電波が飛び込むと、あちこちに電波が飛び散り、 遠く離れた受信点へも、ごく弱いながらもその一部が届くものです。散乱によ る伝搬は回折に比べると大変弱いのですが、距離が長くなると回折波の強度は 急に低下するようですので、超DX通信には散乱による伝搬に頼ることになる そうです。

 さて、今まで数百kmという遠距離通信に述べてきましたが、ローカルでの通 信では反射波を使うのも大変有効です。私達、松山地区SHF研究会では毎週 金曜日9:00よりオンエア・ミーティングを実施していますが、松山城や高 いビル、高い鉄塔などの反射を利用して交信しています。例えば、24GHz などではマイクロバス程度の反射板があると30dBくらいの電界強度が得ら れるようです。

6.マイクロ波の運用

 マイクロ波の通信では、相手が電波を出せばすぐ受信できるというものではあ りません。普通30分、多いときは2時間ぐらいかかることが多いのです。マ クロ波の通信ではいろいろな要素が多いのでそれらが一致しないと受信できま せん。

 特に、一致しない要素には周波数とアンテナ向き合わせの問題があります。

 マイクロ波では送信周波数、受信周波数に確信がなかなか持てないので、あ らかじめ運用前に相手送信機と周波数合わせを行っておくと安心です。アンテ ナを動かしながら周波数も変えるというのではますます受信できる機会も減っ てしまいます。

 次に、完全に相手方向にアンテナが向いているかというと、これがマイクロ 波では大変難しいことなのです。

 マイクロ波の運用にはパラボラやカセグレンタイプのアンテナが多く使われ ます。これらはビームが大変シャープなため相手方向に向けているつもりでも、 それが少しでも狂っていると大変な減衰になります。

 例えば10GHzで60cmのパラボラアンテナを使用しますと半値角は3. 6度です。

 半値角:アンテナの主ビームカ向から左右に振った場合、アンテナの利得よ り3dB(半分)低くなる点

 相手方向から3.6度ずらすとアンテナ利得は3dB低下します。これは片 方の局ですから、両方の局とも正確に向いていないと、さらに倍の減衰になり ます。また、アンテナ、フィードホーンを自作した場合、完全に相手方向に向 けているつもりでもフィードホーンが少し曲がっていたり、パラボラ面の歪み などにより変な方向に主ビームが出ることがあります。

 このようにマイクロ波の通信では、極端な言い方をすれば、点と点が合わな いと通信できないような世界なので、根気よくやることはもちろんですが、受 信できる確率を上げる工夫が必要です。

7.手軽にできるアンテナ製作

 マイクロ波のアンテナは大変シビアな精度が要求されるのかというと、精度 の良いことに越したことはありませんが、プロの世界ではありませんので身近 にある材料を使って気軽に製作できます。

1)電磁ホーン

 5.6/10GHzで20dBの利得を出すアンテナ(電磁ホーン)を製 作するのは簡単です。その気になれば材料費はただ同然の石油缶などを切り 開き、決められた寸法に作れば間違いなく利得を出すことができます。下記 の表は電磁ホーン寸法表(CQ紙’96.11、123頁より)です。
10dB λ5.75G10.24G24.10G
1.472.941.017.4
1.257.332.213.7
0.526.014.6 6.2
導波管  / 40.022.9010.668
 / 20.010.204.314
13dB λ5.75G10.24G24.10G
2.0104.258.517.4
1.683.346.913.7
1.367.738.1 6.2
導波管  / 40.022.9010.668
 / 20.010.204.314
15dB λ5.75G10.24G24.10G
2.5103.273.231.1
2.0104.258.624.9
2.1109.261.526.1
導波管  / 40.022.9010.668
 / 20.010.204.314
17dB λ5.75G10.24G24.10G
3.1161.590.838.5
2.5130.273.231.1
3.3171.996.741.1
導波管  / 40.022.9010.668
 / 20.010.204.314
20dB λ5.75G10.24G24.10G
4.4229.2128.954.8
3.6187.5105.544.8
6.5338.5190.480.9
導波管  / 40.022.9010.668
 / 20.010.204.314

 一方10dB程度の利得であれば酒の澗ポット、金属のコップ、懐中電 灯の反射板(軽くて面精度が良く、ホーンアンテナに利用できる)なども利 用できます。

2)パラボラアンテナ

 マイクロ波では直径60cmくらいまでが適当です。それより大きいと風圧 対策などで大変になります。また、ビームが鋭くなり方向合わせが難しくな ります。移動用川には直径30〜40cmくらいが扱いやすくて便利です。直径 30cmくらいで使える材料(きれいな湾曲をした鍋や鍋のふた、ポールなど) は注意すれば身近に見つけることができます。10/24GHz帯では携帯 用ガスボンベの底面、なども利用できます。

 以下はアンテナ設計図の一例です。

10.24GHz円形導波管パラボラ

3)BSアンテナ利用

 BSアンテナ(40cm程度)は40dB程度の利得(10GHz帯)が可 能で有効な材料です。10GHz帯ではそのままフィードホーンを利用でき ます。5.6/24GHz帯ではフィードホーンを作り替えて下さい。

4)無指向性アンテナ

 5.6GHz帯では製作可能です。設計図を示しますので挑戦してみて下 さい。

  ア.GPアンテナ

  イ.テフロン基板で作る5.7GHz用コリニアアンテナ

8.マイクロ波で使用する給電線

 マイクロ波では5.6GHz帯以外は同軸ケーブルでの給電は減衰が激しく て使いものになりません。5.6GHz帯でもできるだけ太い同軸ケーブル (10DSFA以上)を使って下さい。短い距離(数10cm)ではセミリジッ トケーブルが有効です。10/24GHz帯では導波管(内径:20/8mm) が有効です。特に、24GHz帯ではエアコン用のガス管が利用できます。

9.簡易検出計(電界強度計)430〜5.6GHz用

 マイクロ波で使える測定器は我々アマチュアでは高価で手の出せる代物では ありません。そこで検波用ダイオード使って倍電圧整流し、メーターを振らせ るものです。5.6/10GHz帯では使用可能で電波が発射されているかど うかの目安には使えます。以下はその設計図です。

10.免許申請

 現在、業務では4〜6GHzは長距離、10〜20GHzは短距離に使われており 周波数が不足してきております。そこであまり使われていないアマチュアバンドが ねらわれています。バンド防衛の意味からもみんなで変更申請を出しましょう。

 1200MHz帯の免許を持っている人は、該当の送信機工事設計と送信機 系統図を添付して電気通信監理局へ申請すれば簡単に免許が得られます。この手引き に添付している送信機系統図を参考にしてください。

添付資料
  ・プロフィール図作成用紙・・・添付省略
  ・送信機系統図・・・マキ電機さんのホームページにありますので、参照してください。

以  上


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